ナタリア・ミハイレンコ
モスクワで12月に予定されていた露日首脳会談はロシア側の要請により延期された。11月16日には、野田佳彦首相が衆議院を解散し、総選挙となった。はっきりしたのは、今度訪露するのは新首相ということだ。
露日関係のボルテージは下がってしまったわけだが、 二つの要因が考えられる。
まず、双方の思惑にはズレがあり、それが首脳レベルを含め、露日間の政治対話を妨げているということだ。
日本側が望んでいるのは、北方領土問題を動かすことだ。誰が首相になろうとも、北方領土問題をめぐる交渉での前進のみが、政治的得点となりうる。
一方、ロシアは直ちに領土問題で前進させることは課題としていない。ロシアにとって重要なのは交渉を再開させること自体であって、それによって両国間の政治的雰囲気を安定させることだ。さらに、交渉と並行して友好関係を深め、経済などでの協力を強めていくことである。
信頼関係が先
領土のようなデリケートな問題は、相互信頼がなくては解決できるものではない。どうやら双方ともに、今の段階で領土問題を解決するなど無理だ、とわきまえているようだ。
双方の立場が真っ向から対立している時に首脳会談を行っても、領土問題では前進など期待できず、世論はまたまた反露的方向に流れる。こういう悪循環から脱するためには、両国を結びつけるような事柄を議題にする必要がある。エネルギーとか経済協力とか、北東アジアにおける安全保障とかがそれだ。
露日関係冷却の理由はそれだけではない。もう一つ、日本と中国、韓国との関係がある。今年の夏、日本は両国との領土問題が先鋭化して事実上、外交的孤立に陥った。正にその頃、日本で多くの人が、日露関係が好転するとの希望的観測を語り始めたのである。
ほら、日本人が「嫌いな」メドベージェフに代わって、「親日的な」プーチンが大統領になり、領土問題は妥協に基づいて(または引き分けの形で)解決すべきだ、と言ったぞ。長い中断の後で、首脳会談の準備に向けて日程を決めたじゃないか、うんぬん。
日本のマスコミの多くも関係の「活発化」を領土問題での「前進」と結びつけて報じた。
領土問題は、ナショナリズムの盛り上がりを促し、そのナショナリズムをさまざまな勢力が利用してきた。
日中韓の関係は、露日関係とは対照的だ。後者は何と言っても、堅固な経済的基盤をもたず、したがって内政の風向きに左右されるからだ。
北東アジアの安定
露日関係発展の機は逸したわけではない、とロシア側は考えている。なぜなら、ロシアにとって日本は、エネルギー資源の市場としてのみならず、重要な戦略的パートナーとして必要なのだ。これによって、アジア太平洋地域におけるロシアの外交戦略を安定させられるからだ。
その証しは、ロシアが領土問題を議論する気があることである。
今や、多くのことが日本の選択にかかっている。露日関係を「日本固有の領土返還」という定式に還元し、関係全体を犠牲にしてしまうのか。それとも政治的な英知を発揮し対話を始めていくかの選択である。
ドミトリー・ストレリツォフ、モスクワ国際関係大学教授
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