アレクセイ・ヨルスチ
中国は、数年先を見越して立案された計画どおりに、常にすべてが進む国だという評判を作り出した。最後に大きな動揺が生じたのは四半世紀近く前のこと。共産党は、天安門広場の民主化運動を弾圧した。それ以後も、党路線が変わり動揺する時期はあったが、それらが、「定められた方向を目指し、明確な目的をもって進む、一枚岩の国」という世界の共通認識に影響することはなかった。2000年代の世界の不安定化は、中国のこの特質を際立たせるだけだった。他の国々が右往左往し、立ち往生すればするほど、北京の前進運動は、さらに堂々たる印象を生み出した。
だがまさに、すべての人々が中国は前進する一方だと信じ込んでいたがゆえに、他の国なら束の間の関心を呼ぶだけだったであろう小さな変調でさえ、中国の場合は、ほとんど警鐘に近いものとして受け取られる。
党大会をめぐる緊張
予定よりも1ヵ月近く遅れて開催された党大会は、緊張状態で進んだ。これには、いくつかの要因が重なった。
第一に、中国権力が今の世界情勢を気にしていることだ。中国は、アラブ諸国など「春」が目覚めた国々とはほとんど共通点がないのに(中国の定期的な政権交代は、まさに停滞感が生じないようにと確立された)、北京では、騒乱が何らかの形で自国にも波及することを危惧している。
第二に、中国は2000年代末の金融危機を、大半諸国の経済よりもうまく乗り切ったにもかかわらず、中国の成長モデルは命脈が尽きており、発展の基盤自体の見直しが必要だとの議論が止まない。
第三に、最も有力な党活動家の1人であった薄煕来氏が、多くの面で「逸脱した」とされ、公然と制裁されたことで、中国権力内部でも激しい政治闘争が行われていることが明らかになった。
これらの要因があいまって、別に意外な展開が予想されているわけではないが、これまでのような、不変の路線をあらかじめ確信するという雰囲気からは程遠い。
「中庸は能くすべ可らざるなり」
中国指導部の第5世代は、もう“潅木の茂みに隠れて”はいられない。
「分を越えたことをしてはならない」という鄧小平の遺言にいつまで従うのか、という議論は、おのずから終わった。北京は、望む、望まないにかかわらず、すでに世界の注目の的になっている。その一挙一動が拡大鏡で注視され、それに対して数多くの解釈がなされ、しかも、解釈の大半が偏っている。それは中国の発展と大きさが恐れられているからだ。
いくら中国の官僚や教宣活動家が、自分たちは西側のような拡張主義を考えておらず、いかなる世界覇権もめざしてはいない、と呪文のように繰り返しても、そんな呪文を信じる者はいない。欧米は、自らの思考法を他の国にも投影させる傾向がある。おまけに、いつでも、あらかじめ最悪の事態に備えていたほうが気が楽だ。仮にそれが起きても不意打ちを食らわずにすむから。
強まる反中国
これはつまり、中国に対抗、敵対する動がとられるであろうことを意味する。中国が米国中心のグローバル・システムのネガティヴな影響をまぬがれ、そのうまみだけを享受できた「特別扱いの」発展期は終わり、今や、すべてがその逆だ。
もっとも、グローバル・システム自体が危機を迎えているが、それにで中国が楽になるわけではない。中国は、グローバル・システムの凋落を喜ぶには、あまりに多くそのシステムに依存しており、その代案を提出するだけの十分なイデオロギー的、軍事的、政治的ポテンシャルを持ち合わせてはいない。
という次第で、中国が危機に瀕しているとの予測、展望が現在さかんだが、こういう中国危機説の盛り上がりは、今回が初めてではない。公正を期して言っておかねばならないが、こういう危機説の“波”は、おそらく20年間で4回目だ。
これらの相次ぐ波を、今のところ、中国指導部は、うまく乗り切っている。彼らは、状況を和らげ、「中庸」路線を見出すのに成功してきており、その路線が新たな成功をもたらしている。もっとも、これまでは中国の危機と世界システム全体の崩壊とが同時に重なったことはないのだが。
隣国への影響
ロシアにとって、この巨大な隣国の実際の、あるいはいくらか誇張された困難は、多くの影響を与えずにはすまないし、しかも、そのほとんどが危険をともなうことになろう。
中国の凋落が実際に始まるとすれば、資源景気をふくむ全世界経済を低迷させるだろう。しかも、中国指導部がどんな政策によって、国内安定にも欠かせない成長の欠落を埋めようとするのか、よくわからない。排外主義は、おなじみの「麻酔薬」だ。
一方、もし中国がこれまでと同様に成長し続けるなら、やはり、中国周辺の緊張は増大しないわけにはいかないだろう(近隣諸国も米国も神経質になる)。そして同時に、ロシアへの圧力も強まるだろう。どちら側につくのかはっきりしろ、と迫られることになる。
だがロシアにとっては、はっきり最終選択してしまい、フリーハンドを失うことは損になる。だから我々は、中国第5世代が、白刃をうまく踏んで、危機をうまくかいくぐり、中庸を見出すことを衷心から願うべきだ、ということになる。
フョードル・ルキヤノフ、「グローバル政治におけるロシア」誌編集長
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