宮崎朋菜さん =PressPhoto撮影
今年4月、こんなイベントが開かれた。世界中の子どもたちがインターネットで共通の曲を聴き、心に浮かんだことを絵に描く。絵はサイトで公開し、審査員による選考とネット投票で優秀作を選ぶ。題して「国際子ども絵画コンクール『音楽を描こう』」だ。
事前に曲の説明はなし。感じたままを描いてもらうためだ。流れたのは日本人ピアニスト・宮崎朋菜(ともな)が弾く伝統歌「さくら」の変奏曲(小林銀河編曲)だった。子どもたちは絵を出してから、曲の意味を教わった。
コンクールは宮崎と、ロシア語圏の教育・育児ポータルサイト「ソールヌィシコ(太陽ちゃん)」などが企画した。ふたを開けてみるとロシアをはじめベラルーシ、アメリカ、日本から85作品が集まった。子供たちの年齢は3歳から16歳。描かれたのも鳥の群れだったり、雪景色だったり様々だった。「子どもがそれぞれの感性をぶつけてくることに、圧倒されます」(宮崎)。
宮崎は、モスクワに拠点を置いて世界各地で演奏活動を続けるピアニストだ。高松市に生まれ、東京芸術大学を卒業した後、院生としてロシアのチャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に学んだ。
「音楽を描こう」プロジェクトの構想が生まれたのは2006年冬、モスクワ近郊の森だった。ロシア人のパーティーに参加した宮崎は地元の学校教師と出会う。日本の自然のことなどを話しているうち、興味を抱いた教師から、学校での「さくら」の演奏を打診された。
その3か月後、地元の学校の音楽ホールでグランドピアノに向かう宮崎の姿があった。その日、宮崎は小さな描き手たちの創作物を受け取る。プロジェクトが始まった瞬間だ。
周囲からまたやろうという声が上がった。何より自分自身が子どもたちの反応に惹かれていた。開催はロシアだけでなく、日本やフランスなどの演奏旅行先にも広げられ、計10回を数える。「こども桜プロジェクト」という通称もできた。
公益的な狙いがあるため、有料公演ではなく自主イベントの形をとる。そうした中で、ネット配信を提案してその経費も負担してくれる協力者が出てきた。回を重ねるごとに少しずつ、支援の輪が大きくなった。11月には演奏曲を変えて、またネットを通して開催する予定だ。
なぜ続けるのか。「大げさに言えば、音楽家として地球のためにやれることだと思うから」と答えた。
「違う国に同じ年ごろの子どもが生きていて、同じ音楽を聴いて違う絵を描く。それぞれが表現し、認め合う。そんな経験がこれからの世代に必要だと思うんです」。(敬称略)
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