深宇宙がぐんと近くなる

写真提供:NASA

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ロシアは宇宙科学プログラムを復活させ、研究開発におけるかつての地位を取り戻そうとしている。そのプログラムの中心となるのが、電波天文衛星「ラジオアストロン」計画だ。

1年ほど前、バイコヌール宇宙基地から、国際計画「ラジオアストロン」で開発され、電波望遠鏡と地上の電波望遠鏡をひとつのセットとする、VLBI(超長基線電波干渉計)衛星「スペクトルR」が打ち上げられた。

他の宇宙への通路 

「数カ月以内には、超大質量ブラックホールや、時空のトンネルであるワームホールの存在を証明するための、探査活動の一部に使われるだろう」と、「ラジオアストロン」計画の責任者であるニコライ・カルダシェフ研究員は、最近記者団に語った。

この特別な天体物理用機器は、レベジェフ物理学研究所天体宇宙センターや、ラヴォチキン科学生産合同体のロシア人研究者らが開発、製造した。

カルダシェフ研究員によると、近い将来科学者は、事象の地平面、すなわちブラックホールの境界を見ることができるようになるという。

「ブラックホールの『陰』の画像を撮影できるよう期待している。もし陰ではなく、夜光があったら、それは我々がワームホールを見たということを意味する」とカルダシェフ研究員は、10月初めに開催されたロシア科学アカデミー宇宙研究所の会議で述べた。

複数の仮説によれば、ブラックホールは宇宙が形成された瞬間から存在しており、他の宇宙とつながるワームホールの痕跡である可能性もある、と同研究員は述べた。

片方だけでは成り立たない

 「スペクトルR」の製造には実に30年を要した。最初はサイズが1キロメートルほどあるなど、非現実的なプロジェクトだったが、現在は10メートルにまで縮小された。「ラジオアストロン」が国際的な計画になったのは、それなりに認められたからだ。

「このVLBI衛星は、地球から遠く離れると、その角分解能が拡大する。例えば、人間は片目で物を見てもそれがどのぐらいの距離にあるのか判断できないため、両目で見ることが必要だが、宇宙に打ち上げられたこのVLBI衛星は、同じような投影をつくりだしている」と、レベジェフ物理学研究所天体宇宙センターのミハイル・ポポフ部門長は説明する。

「ラジオアストロン」は高い角分解能を活用しながら、遠い宇宙の対象物を詳細に見ることができるのだ。

ブラックホールとは、重力崩壊、すなわち星の爆発、圧縮の結果生まれる天体である。ブラックホールの中心の重力には、時間が止まるほどの強さがあり、その境界は、時間と空間がその機能を失ってしまう、重力の特異点なのである。

「スペクトルRG」の打ち上げ計画も

「最近の理論によると、ブラックホールに吸い込まれた場合、特異点のわきを通って、他の宇宙に行くことができる」と、レベジェフ物理学研究所天体宇宙センターのイーゴリ・ノヴィコフ部門長は話す。

この仮説は今のところ、肯定も否定もできないが、「ラジオアストロン」を活用することで、神秘的な物体を実際に観察し、新たな特徴を見つけ、新たな理論を提唱することが可能となる。

今後も、「ラジオアストロン」計画では、新たな打ち上げが行われる。

ロシア科学アカデミー宇宙研究所のスポークスマン、ユーリー・ザイツェフ氏が、初の人工衛星打ち上げを祝う、10月4日の「宇宙科学の日」の開会式で、発表したところによると、打ち上げロケット「ゼニト」が2014年に、ロシアとドイツのX線天文衛星「スペクトルRG」を打ち上げる予定だという。「スペクトルRG」の課題の一つは、銀河系のX線天文衛星の調査を行うことだ。

「『スペクトルRG』は、国際計画『ラジオアストロン』の一環として打ち上げられ、『スペクトル』シリーズの2基目となる。『スペクトルRG』は、恒星系の進化や、矮星、中性子星、ブラックホールの形成を調査する」とザイツェフ氏は述べた。

「スペクトルRG」は、地球から太陽の方向に150万キロ離れているラグランジュ点L2に送られ、記録的な感度でそこから空全体を観察する。

「これにより、銀河団を多数発見することができ、また宇宙の宇宙学的パラメータ、銀河系やブラックホールの誕生の歴史を明確にすることができる」とザイツェフ氏。

X線天文衛星「グラナト」後のブランクを埋める

「スペクトルRG」は、過去十数年中断しているロシアのX線観測を復活させることにもなる。X線天文衛星「グラナト」は、1999年にその任務を終えている。

「ラジオアストロン」計画ではその後、紫外線・赤外線天文衛星「スペクトルUF」や「スペクトルM」も打ち上げられる。

「『スペクトルUF』は、2016年に、ロケット・ステージ『フレガート』を用いた、打ち上げロケット『ゼニト2SB』で打ち上げられる予定だ」とザイツェフ氏は述べた。

国際協力で資金難克服を 

「ラジオアストロン」計画は、国際的に重要な宇宙プロジェクトとなっている一方で、資金的な問題もつきまとう。宇宙望遠鏡の進化は、おもに規模、価格、技術的難易度の増大と平行している。大金が投じられた機器の多くは、稼働し続けており、その価値を十分に示しているが、金融危機の状況下にあって、資金的な問題はより難しくなっている。

発射の準備が行われている、話題のNASAジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のコストは、数十億ドルをすでに超えている。このプロジェクトは中止はされないが、専門家は幾度となく、ウェッブ宇宙望遠鏡の予算が膨れ上がったことで、アメリカの他の宇宙研究への予算が減額されていると指摘している。

このような状況を考えると、宇宙開発分野の多くの科学技術課題を解決するには、「ラジオアストロン」計画など、国際的な協調を密接に行っていく以外の選択肢がないことは明らかだ。