=ウィリアム・ブラムフィールド撮影
ロシアに有名な観光名所は数多あるが、その筆頭は赤の広場の聖ワシリイ大聖堂だ。
毎年何万人もの来訪者がその前を通り過ぎるが、そのうちの多くは、数々の小聖堂が形成する迷路や狭い廊下を探索しに中に入る。そして、最もよく出る質問は、「出口はどこですか?」だ。 その名声にもかかわらず、この驚嘆すべき建造物は、専門家を依然として悩ませ続ける謎に満ちている。その名前にさえ食い違いがあるのだ。正式名称は「堀の生神女庇護大聖堂」である。
多くの伝説
この聖堂の起源は伝説に包まれている。そのほとんどは、1552年にタタールのカザン・ハン国の首都カザンを占領したことを記念して生神女庇護聖堂の建立を命じた、悪名高き人物イワン4世(雷帝)にまつわるものだ。
ただし、これ以上美しい建築物が建てられるのを恐れたツァーリの命令により、聖堂の建造に関わった職人が完成後に盲目にされた、という話の明確な証拠は存在しない。
そして佯狂者ワシリイという人物がいる(佯狂者は放浪無宿で馬鹿を装う聖人)。彼は赤の広場周辺で施しに頼る生活を送り、その奇異な性格により伝説的な地位をものにした。
無秩序に見える高度な統一性
この聖堂は秩序を欠いた部分の集合であるかのように見えるかもしれないが、建築家のバルマとポストニク・ヤコフレフは、何重もの意味を内包する統一のとれた論理的な見取を設計した。
基本的な配置は中央の塔から成り、共通の基部をもちながらも独立し、独自の入口を持つ8つの小聖堂がそれを取り囲んでいる。 17世紀にさらに増長されたこの形式的増殖においては、中央の「テント」型の塔や、それを取り囲む8つの小聖堂の高低がなす反復―― 四隅は低く四方は高くなっている ―― が最も顕著である。
聖堂とクレムリンの調和
四隅の小聖堂の基部は直方体で、その上にココーシュニクと呼ばれる装飾が施された半円形の破風が複数並べられた段が3層に重ねられ、さらにその上に円筒形壁とドームが載っている。 西側から眺めると、大聖堂とその横にある入口階段は、クレムリンの主な入口のひとつに面した側にあり、重要な儀式的機能を果たすのにふさわしい、威厳のある姿を呈している。
起源
生神女庇護大聖堂の起源は、その形状と同様に複雑だ。
1522年10月1〜2日にカザンの街を急襲した後間もなく、イヴァンはクレムリンのフロロフ門の外側の広場に、至聖三者にささげる聖堂を建立するよう命じた。 煉瓦造りの至聖三者聖堂は、1553年にクレムリンのお堀の側で完成されると、隣接する7つの小聖堂と共に、すぐに聖地として慕われるようになった。 主聖堂の周囲に礼拝堂がいくつも付加されることは、中世ロシア建築ではよくあることだ。
歴史的勝利を記念して
イワン4世は、カザンに対する勝利に匹敵するスケールでこの大聖堂を再建することを意図していた。この勝利は、やっかいなモンゴル勢力の名残を排除するだけでなく、広大な土地を植民地化と交易のために開放したのだった。
1554〜1556年にカスピ海のボルガ川河口でアストラハンのハーン支配を征服することで、ユーラシアにおける貿易でも最も重要な動脈がモスクワ大公国の手に入った。
また、宗教的な観点でさらに重要な点は、東方のイスラム教徒のハーン支配の征服が、ロシア正教会の勝利の前兆となったことだ。これは、正教会がその資産、組織や最も神聖な教義に対して、各種の異端派の運動から未だに挑戦を受けている時代のことである。
したがって、新しい歴史的記念物の建造は、正教会とモスクワ大公国の勝利を示すことが目的だった。イヴァン雷帝の勝利は、敵の撃退や果てしもない国境紛争における単なる一つの出来事だったのではなく、ある国家のアイデンティティにおいて、宿命を感じさせるような決定的な出来事だったのだ。
国家と宗教のシンボル
こうしたアイディアを祝うために、生神女庇護大聖堂の各部分には、イコンや象徴的な意味が含まれている。
その主軸は東側から始まるが、これは至聖三者に捧げられた元の聖堂であると解釈されている。至聖三者聖堂は、この建造物で最も神聖な場所であると解釈できる。これは、それが東に位置しているからだけではなく、それが数秘学的体系の土台となる至聖三者に捧げられているという理由による。 それぞれの角、対角と方面に、3つの塔がある。
中心には生神女(聖母マリア)に捧げられた聖堂
主軸の中心には生神女庇護に捧げられた聖堂がそびえ立つ。生神女庇護祭はロシア正教会でも最も崇敬されている祭日で、神による庇護の祭りはロシアにも広がった。この行事が行われる10月1日は、カザン攻撃の開始日と重なっている。
生神女庇護聖堂は、聖ワシリイ聖堂の外見の視覚的かつ象徴的な頂点だ。その中央の塔は、ロシアの象徴になっている。しかし、聖ワシリイとして知られる塔の集合には別のレベルの意味があるのだ。
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