お好みに合う石鹸を

=ミハイル・モルダソフ撮影

クリスチーナ・スジェレフスカヤさんの石鹸製造所にあるものは、食品ばかりで、いかにも美味しそうに見える。ステンレスのボールにはオリーブ油とヒマワリ油が用意され、鍋ではヤシ・バターが弱火で溶かされている。山羊乳、ハチミツ、イラクサの浸液、乾燥ユーカリ、バラのつぼみ、籠一杯の朝摘みの山野草。精油や化粧オイルのはいった、色とりどりの小瓶。

3年前にモスクワから移住 

クリスチーナさんは3年前に、夫のドミトリーさんと幼い娘と一緒に、モスクワから小さな山村のメドベーエフカに移ってきた。2014年に冬季五輪が開催されるソチに近いクラースナヤ・ポリャーナから10キロのところにある。 

ここの難題は携帯電話の通信と電気。冬は家が屋根まで雪に埋もれ、夏は毎日のように熊がリンゴ園にやってくる。そのかわり空気と水は清浄そのもので、森や野には、保護植物に指定されている、いろいろな植物が満ち溢れている。

「私が本当に、山羊乳と、採れたてのニンジン・ジュースやキンセンカの煮出し液をベースに石鹸を造るなんて信じられないでしょう。廉価な顔料や芳香剤や、その代用品が何でもあるのに、なぜ手のかかる自然成分などにこだわるのかしら?」とクリスチーナさんは言う。

「人は最初、うちの製品を疑わしげに見て、ほんのちょっぴり試し買いする。そのあと戻ってきて、1年分買い込んでくれる。自家製の石鹸と工場製品とのちがいは一目瞭然です」。

有害な「石鹸のモト」は使わず 

新製品はみな、最初は、上の娘ミラーナや、まだ2歳にもならない末娘ウラーダをふくめて、家族で試用する。

メドベーエフカでは昔からの石鹸作りの技法にしたがい、植物性脂肪の混合物と苛性ソーダ水溶液(ナトリウム水酸化物)を混ぜ合わせる。それが反応過程で石鹸になる。石鹸がまだ固まる前に、油、煮出し液、ミルク、ハチミツ、そのほかの添加物を入れる。

圧倒的大半の「手づくり石鹸」製造業者は、化学反応の時間を節約して、透明顆粒状で市販されている、既製の「石鹸のモト」を使う。工場生産の「石鹸のモト」には、重金属化合物を含めて、かならずしも健康によいとは言えない成分が大量に入っている。もし店頭で、透明で滑らかな、しかも光沢のある手づくり石鹸を見かけたら、まず間違いなく「石鹸のモト」で作ったもの。「ゼロから」造られた石鹸は、白っぽい、くすんだ色で、その構造は良質の洗濯石鹸を思わせる。

          

ロシアや外国の個人顧客が注文 

クリスチーナさんが石鹸造りを始めて6年になる。最初は、自分用と友人用に数個から始めた。今は、石鹸、シャンプー、ゲル、バルサム、パック剤、クリームなど、1年に約4トンの製品を生産している。

製品は、スパサロン、優良サウナ、商店、自然化粧品店などに納品されている。メドベーエフカの石鹸を注文してくるのは、ロシアや外国の個人顧客だ。

「私たちは宣伝活動はしていません。ブランド・マネージャーは私ですが、宣伝は、もっぱら使用者の口コミによるものです」とクリスチーナさんの夫ドミトリー・セローフさんは言う。「このビジネスは、私たちが明日、ヨットを買うためのものではなく、孫の代が買うためのもの。将来性があるのは誠実な製品だけだと思います。10年、20年と時がたち、その製品が信頼されたら、マーケットに出るのです」。

クリスチーナさんは現在まで、自分の仕事を「ホビー」と呼び、ビジネスとは考えていない。販売収益のすべてと夫の稼ぎの大半は、この仕事のさらなる成長に消えていく。その行先は、原料、包装紙、小瓶や容器、デザイナーの仕事、カタログ印刷、ラベル製造など。