ゴーゴリの『外套』やブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』などロシア文学は実は幻想小説の宝庫でもある。リアリズムとされるドストエフスキーやトルストイの作品にも、幻想はしばしば夢や妄想として現れている。
本書は近年再評価されたオレスト・ソモフ(1792-1833)の短編集。広大な帝国の多様な風景を讃美した評論で記憶されてきたこの作家は、ロシア文化の源流ウクライナの伝承の再話にも心血を注いだ。
その妖怪は絶対的な悪ではない。コサックを愛して共に滅ぶ哀しい魔女、したたかな叡知で繁栄する人狼の家系など、どこか人間界の延長線上に息づいている。妖怪とは古来、民衆の悲哀や夢で満たされてきた器なのである。