独裁は人材を失う

ドミートリ・ヂヴィン

「ロシアは才能輩出の地なのか」との質問が投げかけられることが多い。西側の企業には、優秀なロシア系の開発者や技術者が数多く従事しているためだ。

「グーグル」共同創設者のセルゲイ・ブリンや「ペイパル」創設者のマックス・レフチンら世界的に有名な人物もいるが、これらの人々は自発的移民には数えられない。多くの「IT活動家」がそうであるように、子供時代に両親がロシアや旧ソ連の共和国から西側に移民した移民2世だ。

大人になってからアメリカを永住の地として選んだIT活動家も数十万人にのぼる。カリフォルニアにある「ヤンデックス開発センター」の最高責任者であるアルカディ・ボルコフスキー氏や、「マイクロソフト」の研究者であるエフゲニー・ベセロフ氏といった伝説的なプログラマーもいる。

ロシアに他国より才能ある人物が多いとは思わないが、少なくとも 20 世紀にそのような印象が多くの人に植えつけられたのは事実だろう。この背景には、次のような事情がある。

イデオロギーの影響

 ロシアは20世紀のほぼ全般で、イデオロギー化された独裁政権の支配を受けていた。世の中を知っている人間ならば誰でも自分の生活にイデオロギーの影響が及ぶ分野を避け、科学の分野を選ぶ方が賢明だと知っていた。

精密科学の分野でも、生物学、遺伝学、人工頭脳工学などにはイデオロギーの猛威が及んだ。例えば、スターリン時代の弾圧下で、 20 世紀の優れた生物・遺伝学者の一人に数えられたアカデミー会員のニコライ・バビロフは銃刑の宣告を受けたし、大半の遺伝学研究者が収容所で命を落とした。1930年代には、確率論までがブルジョア的疑似科学と認定されそうになったが、多くの確率論を打ち出した偉大な数学者であるアンドレイ・コルモゴロフが機転を利かせ、何とか危機を救った。

1990年に「科学的共産主義」が終焉を迎え、イデオロギーが消滅すると、有能なロシアの若者はビジネス、銀行、法律関係、株式取引所などに飛びついて行った。現代のロシアでは、銀行員、株式仲買人、検察官、飲食店主、テレビ番組の司会者などのステータスが高く、科学者は蚊帳の外に置かれている。

科学、教育、その他の代替経済すべてよりも、石油とガスが優先されるのだ。石油とガスを取り巻くロシアの経済をつくり上げている人間が、他の分野を台無しにしていると言った方が正しいだろう。

ロシアのITの将来については、現在の政権が石油を採掘できる人間と石油採掘を行う人間の下で働く人間ばかりを大切にしているため、はなはだ疑問だ。その他の人間は、新しい有能な人材も含め、必要な時にすべてお金で集めればいいと考えているのだ。

 ステパン・パチコフ( 62 )、物理学・数学修士、元ソ連科学アカデミー上級科学研究員、モスクワ初のコンピューター・クラブ設立者(共同創設者はガルリ・カスパロフ)、「パラグラフ」社(1989)および「エバーノート」社設立者。ニューヨーク在住。

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