プーシキン没後175周年

=ロシア通信

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200名の農奴の保有者、決闘者、当代無比な詩人、ロシア初の小説家であるアレクサンドル・プーシキンは、優雅でやや放埓な人生を、ともすれば周囲の人間から見れば厄介で不可思議な人生を送った。

9万2500ルーブルの借金と、軽薄な上流社会出身の妻と4人の子供を残し、満37歳になる前に他界した。

人生は逆説的で謎めいている。逆説的とは、爪を長々と伸ばした小猿風の少年であったプーシキンが、現代のロシアに不可欠な言語や考え方を創り上げたということだ。謎とは、現代に生きるロシア人がなぜ、あたかもプーシキンを皇帝、受難者、予言者、あるいはロック・スターであるかのように認識してしまうのかという点だ。

主な疑問点については、私は現代人の言うことをあまり信用しないようにしている。そのために、プーシキンと直接話ができたら、という考えが何度もちらつくのかもしれない。過去や現在の多くの物事について質問できたらおもしろい。今日の多くの問題に対する答えをプーシキンが出しているにもかかわらず、プーシキンの詩、散文、論文を深読みする代わりに、妻の服、愛人のリスト、官能的な人生の詳細やその死に目が向けられてしまう。ここ10年の研究には特に大きな成果も見られないが、プーシキンに関する一連の決まり文句はうんざりするほど頭に叩き込まれている。

喧嘩早い決闘者であった、と非難されている。だが、プーシキンは黒人の混血であるが故に肌の色をからかわれ、ライオンに囲まれたヒョウのように、ひたすらがまんしていなければならなかったことを考えれば、むしろ攻撃側ではなく守備側だったといえるのではなかろうか。

口頭や文面によるプーシキンへの誹謗中傷は、晩年にその多くが美しい散文へと変わった。新しい上流貴族社会のジャンルが確立されたのである。

プーシキンの個性を滑稽なものに見せようと試みた者もいたが、失敗に終わった。逆に、元来彼はあまり端正ではなかったため、より一層その風格は高められていったのだ。

また、プーシキンを「ロシアのドン・ファン」とするこじつけもある。だが、激しい愛の形が、しばしば内面を覆うマスクとなっていたのだ。乱暴な所作によって自身の詩を現実的に創ろうしたこともあった。貴族学校の友人からは「フランスの猿」という愛称が与えられていたが、上流社会の女性は、その猿とのロマンのためなら、すべてを捧げても良いという心構えであった。

プーシキンは金銭管理ができなかった、さらにはそのために死んだ、という誤解も存在するが、実はまったくその逆だった。プーシキンの手紙は緻密な数的評価や計算でびっしりと埋まっている。問題はむしろ、文学作品や資産による収入よりも出費が上回るような状況に、意図的に追い込まれたことにある。

無神論者とも考えられているが、精神的な道はキリスト教的価値に向っていた。ゆっくりと自信を持ちながら、美しく整えられた表面ではなく深いところまで、また世界の不幸や苦しみといった厳しい条件の中での優しさの創造に向けて、稀有な道を進んだのである。

プーシキンの芸術は、現世の神聖さに自らを引きこんだ。子供が彼の作品を読むと、「プーシキンは嘘をついていない」とか、「すごくきれいで、泣いてしまった」といった感想を述べる。彼はロシアで初めて、「行儀の芸術的作法」を手にしたのだ。これは詩の女神が文章を口述筆記させたわけではない。プーシキンの散文は、自身の行いの延長上にある。詩は激情の賜物ではなく、心からの願いによるものだ。作品の通りに生きたのである。当時も今も、多くの作家の人生は、基本的に自身の作品のパロディーなのである。

A.S.プーシキンの物語。有名なロシアアーチスト、イワン・ビリビンの絵

ロシア語は自然現象で、力強い生物的エネルギー媒体だ。ロシア語は、ロシア史の前書きとして行動や考え方を説明する海なのだ。ピョートル大帝もパーヴェル1世も、ロモノーソフもカラムジンも、ロシア語を解き明かすことができず、また民衆語の素晴らしさも発見できなかったということは、ロシア的思考の豊かさを証明している。プーシキンはこれをやってのけた。ここに歴史的な意義がある。

プーシキン自身が予感していたように、彼の死後、すべては好ましい方向に変化を遂げた。借金は返済され、息子たちは小姓になり、娘たちには恩給が与えられた。未亡人は温厚な士官に嫁いだ。そして、プーシキンへの非難は止んだ。「プーシキンの文才は尽きた」という言葉の代わりに、「ロシアの詩の太陽」という表現が現れた。

こうしてみてみると、プーシキンの人生そのものが、彼が自ら描いたロシアで最初の、かつ最高の小説であったともいえよう。運命やその残酷さに対する抵抗を描いた小説、無作法や奴隷制、愛と魂の合体についての小説であった、と。

だからこそ、175年が経過した今なお、哲学的かつ詩的な要素に溢れた偉大なロシアの小説は、読者を夢中にさせてしまうのだ。

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