地下鉄駅で深夜のコンサート

=イリナ・カリニナ撮影

=イリナ・カリニナ撮影

救世主ハリストス大聖堂に近いモスクワ中心部の地下鉄駅で、5月18日から19日にかけ、深夜コンサートが催された。

 2010年から毎年、モスクワの地下鉄建設記念日を祝うライブ・コンサート「地下鉄の夜」が、地下鉄クロポトキンスカヤ駅で行われている。会場は駅のプラットフォームで、中央には客席のイスが置かれ、わきにはドアが開放された電車が停車し、車内でも演奏を聴くことができるようになっている。

 地下鉄建設77周年を迎える今年は、収容可能人数以上の人が音楽鑑賞を希望したため、特別招待状を持つ500名のみが入場を許された。

 過去二年はクレムリン室内管弦楽団による管弦楽コンサートが行われたが、今年のプログラムは事前に声楽演奏と決定され、国内で伝統的人気を誇るボリス・タラカーノフ氏が率いるロシア国立人文大学合唱団に白羽の矢が立った。深夜午前2時半から4時までの1時間半、この合唱団の他、ボーカル・グループ「ブロードウェイ」、国際コンクール入賞者のイリーナ・サクネ氏、ナターリヤ・キリッロワ氏らが出演した。

 「地下鉄の夜」は「ナイト・ミュージアム」の続編、正しくは追加的プロジェクトである。この夜だけは、モスクワ市内の博物館や美術館のほぼすべてが無料開放される。この国際プロジェクト「ナイト・ミュージアム」には、2007年からモスクワ市も参加するようになった。

 モスクワの地下鉄自体も博物館であることを忘れてはなるまい。プラットフォームの比類なき美しさに旅行者は感動し、モスクワ市民は出勤に急ぐ中でも、その魅力を忘れることはない。また、地下鉄駅構内の音響は教会のそれに似ており、音楽家にとって最高の音響施設になる。

 深夜にもかかわらず、会場の観客は眠ることなく真剣に聴き入っていた。むしろ、一緒に口ずさんだり、音に合わせて体を動かしたりしていた。出演者は観客の反応がとても良く、一体になれたことを喜んだ。

一口メモ

 モスクワ地下鉄は1935年5月15日に開業。今日ではモスクワ市民の最も重要な足となり、モスクワ地下鉄公社の利用者は、交通会社全体の56%を占めている。

 毎日1万本以上の電車が12路線、総距離305.5キロ、185駅を走行している。総保有車両数は5000両以上にのぼり、そこから500台以上が編成されている。

 コンサートの間、出演者と観客が20世紀半ばの世界に入り込んだような錯覚を起こしたとしても、それは不思議なことではない。第二次世界大戦中、地下鉄の駅構内では、市民の魂を奮起させるような歌が歌われていた。この日のコンサートでも、有名な1943年作の軍歌「暗い夜」や、若き日の俳優ニキータ・ミハルコフをイメージした映画「私はモスクワを歩く」のテーマ曲が歌われ、会場は強い感動に包まれた。一方、「ブロードウェイ」四重唱グループは、「カリーンカ」をビートボックスやマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」のモチーフの入った独特の編曲で歌った。「トスカ」のアリアなど、オペラの作品が披露される時間帯もあった。この日は、声域のみならず、言語の幅も広く、ロシア語、イタリア語(「オー・ソレ・ミオ」)、ロマ語(「太陽」)、英語(「ドリーム・ア・リトル・ドリーム」)、ヘブライ語、ドイツ語、アラビア語(「キリストはよみがえり給へり」)などで歌われた。

 人文大学合唱団はトルコの円形劇場やイスラエルの寺院でも歌った経験があるが、今回の地下鉄コンサートは団員たちにとって、さらに印象深い経験となったようだ。

 同コンサートは、モスクワ市民の間で安定した人気があるため、主催者側は、今後の国際的規模のコンサートについて、積極的に検討している。