拡大写真シリーズ「蟻物語」 =アンドレイ・パブロフ撮影
ロシアの写真家、アンドレイ・パブロフさんは、7年にわたり蟻を撮影し続けてきた。元極地探検家で、流氷上の基地「北極 28 」で勤務してきたが、脊椎の損傷で手足がほぼ完全に麻痺してしまい、仕事を断念せざるを得なくなった。落ち込んだパブロフさんを救ってくれたのが蟻との出会いだった。
事故後、パブロフさんの人生は一変した。数千キロを簡単に移動していた頃のことは、オーロラや氷山もろとも忘れ去った。「新しい仕事場」は、1~2メートルの範囲内に収まる。
「ダーチャ(別荘)で、そこの生き物を相手に、デジタル写真の撮り方を覚えたんですが、撮っているうちに、その魅力に取りつかれました。落ち込んでいた自分に、蟻が『櫂を手放すな』と教えてくれたんです」。
パブロフさんは、蟻=アントに引っかけたAntrey、または「蟻の王様」のニックネームで、作品をネットで発表しており、拡大写真シリーズ「蟻物語」で脚光を浴びた。蟻が、まるで人間のようにポーズをとったり、働いたりしている。
「蟻物語」で6年以上も主役を務めているのは、パブロフさんの家から 50 メートルの蟻塚に生息するヨーロッパアカヤマアリ (Formica Rufa)だ。外敵と見ると強力な蟻酸を噴射するので、うかつに近づくと危険。蟻塚は人間の背丈ほどにもなる。
パブロフさんによれば、蟻の注意を引くのは簡単で、模造した獲物や天敵を置くだけで集団をコントロールできるそうだ。一匹にある動作を教え込むことができれば、他の蟻も同じことをするようになる。もっとも、すべての蟻に「演技力」があるわけではないため、「大根役者や横着者」は撮影から外さなければならないという。
「蟻とコンタクトできるようになるまで2~3年かかりました。蟻は私のことを認識しているんじゃないかと思うことすらあります。蟻から学べることはたくさんあります。弱者、障害者、お年寄りを思いやる社会ですから、尊敬せずにはいられません」。人間との一番の違いは、蟻は破壊行為をしないことだという。
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