イノベーションセンター 「スコルコボ」=PhotoXPress撮影
ロシア人は、小さな黒い傘の部分が三葉に開くより現代的な弁を考案した。構造はごく単純に見えるが、開発にはハイテク技術が用いられた。なにせ弁は一年に4千万回開閉するのだ。
この「生命の花弁」開発者の一人、アレクサンドル・サムコーフ工学博士は語る。「私たちの弁には3つのナノスケール構成要素(1ナノメートル=1メートルの 10 億分の1)があり、すべて精度150ナノメートルの特別の装置で作られた。例えば、炭素イオンを加速器にかけて高エネルギーのもとでチタンの表面に付着させる。こうして生物細胞になじむ物質が得られるのだ」。
技術テストや臨床試験が行われ、この人工器官の特許や生産・販売に関するロシア保健省の認可が得られた。すでに 40 人以上がこの人工弁を使用しており、その中には6歳で手術を受けた少年も含まれている。
2010年6月にスタートした「ロシア版シリコンバレー」建設計画。 モスクワの西20キロのスコルコボに技術イノベーションセンターを創り、国内産業の技術開発強化とベンチャー企業育成に当たる。 企業に対して法人税の免除などの優遇措置を導入する予定。政府は2015年までの開発資金として、およそ1700億ルーブル (約4300億円)を出資する予定。 しかし今のところ、有望な案件は多くない。なるほど、スコルコボには巨額の融資が行われているが、それ以外の研究機関、大学への支援は増えていないため、ロシアの基礎科学が全体として急速に発展し、人材が育成されるとは考えにくい (エキスパート誌)。 一般市民の間でも、「政権に近いエリート、財閥の租税回避地になるのでは」と勘ぐる向きが多い。外国企業は全体として、スコルコボが実際に「起爆剤」になるかどうか、様子見の構えだ。
しかし、 35 人の小企業はシェアを独占する米国の巨大資本に太刀打ちできず、大規模な生産を軌道に乗せるためには投資家が必要だった。
中国、日本、そして米国からもオファーがあったが、ロシアの研究者たちは自分たちの発明を母国のものにしたいと考え、スコルコボ基金に申請して、参加企業となった。企業は助成を受けることができ、ベンチャー基金は「生命の花弁」の投資家を見つけだす。
スコルコボのある参加企業が取り組んでいるプロジェクトは、腫瘍治療に革命をもたらすかもしれない。現在腫瘍治療で用いられている薬剤の有効性を高める物質が開発されたのだ。
それは、破壊する必要のあるがん細胞の核に直接抗がん剤を運び届けることのできるモジュール・ナノトランスポーター。
だが、市場に進出するためには臨床試験や国の認可の手続きを経なければならない。その企業はスコルコボの参加企業として 50 万ドルの助成を申請し、投資家からも同額の資金提供を受けることができた。
スコルコボの参加企業は他の分野でも活動している。音声識別コンピューター・プログラム、人工3D視覚テクノロジー、核反応の原理を応用した 10 年耐用電池の開発等々。
近い将来、スコルコボのおかげで全世界がこれらの技術を日常的に利用するようになるかもしれない。
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