ボリショイ劇場

再開のセレモニー前 =AP Photo撮影

再開のセレモニー前 =AP Photo撮影

ロシアのオペラとバレエの殿堂、ボリショイ劇場が6年におよぶ改修工事を終えて、10月28日記念コンサートが行われた。改修では 19世紀の姿を再現した一方で、最新設備が導入された。

膨大すぎる改修費 

 2006年から始まった改修工事は、当初3年で済むはずだった。それが倍もかかった原因について、同劇場総裁アナトーリ・イクサーノフ氏は、工事が進むにつれて問題の広がりが分かってきたからだと説明する。「例えば、壁のしっくいをはがしたら、7箇所で土台から屋根までひび割れが走っていたのです。壁は自重だけで立っていたわけですね」と同氏はロシアNOWへのインタビューで語った。

 公式には、改修費用は総額635億ドル(4800億円)だが、独占禁止委員会キリール・カバノフ委員長は「最終的な総額は公式の数字の2倍だとみています」とのこと。2年前には、検察当局が使途不明金の行方を捜査する事態に発展した。判定はシロとされたが、捜査結果の内容は未だに公表されていない。

オープニングガーラが演奏=タス通信撮影

オープニングガーラが演奏=タス通信撮影

ボリショイ劇場

 ロシアの代表的歌劇場で、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場と並ぶ存在。ボリショイとはロシア語で大きいという意味だ。1776年のピョートル・ウルソフ公爵邸でのオペラ、ドラマの上演が起源。何度も火災に遭ったが、1856年に現在の建物が建てられた。この際、正面破風の上に付けられた太陽神アポロンの四頭立て馬車はこの劇場のシンボルとなった。

 ここでの演奏史はそのまま芸術大国ロシアの歴史となる。ごく一部を挙げると、ここで初演された作品にチャイコフスキー『白鳥の湖』、プロコフィエフ『シンデレラ』、活躍したダンサーにマイヤ・プリセツカヤ、ウラジーミル・ワシーリエフ、歌手にフョードル・シャリアピン、ガリーナ・ビシネフスカヤ、エレーナ・オブラスツォワ、指揮者にニコライ・ゴロワノフ、キリール・コンドラシン、ゲンナジー・ロジェストベンスキーなど、世界芸術史上に残るアーティストが綺羅星のごとくいる。

 

抜群の音響戻る
 イクサーノフ氏によれば、改修の最大の成果は音響の著しい向上だ。帝政時代からソ連時代にかけて何度も部分的な改修が行われるなかで、音響的に合わない素材があちこちに継ぎはぎされたり、オーケストラピットの床にコンクリートが流し込まれたりしたせいで、音響の世界ランキングは現在55位にまで転落。

 そうした不適当な素材を劇場の本来の音響に合う材料に全部入れ替えた。改修後、世界的なテノール歌手プラシド・ドミンゴ氏を含むユネスコの委員会が調査し、音響は元に戻ったと認めた。

 また、装飾、インテリアも現在の建物の創建当時(1856年)の姿にできるだけ近づけた。「20世紀に付け足されたものは全部取り去った」と改修請負業者ミハイル・シードロフ氏は言う。

 その一方で、主にドイツ製の最新設備を導入し、ステージは拡大されて21m×21mになり欧州最大。さらに中庭の地下には300席を備えたリハーサルホールを新設。

 面白いのは、ステージ近くのスターリン専用ボックスを往時の姿に入念に復元したことだ。イクサーノフ氏によると、一般は立ち入り禁止とか。

市民はボリショイ劇場の前に、大画面でオープニングガーラを見る=Getty Images/Fotobank撮影

市民はボリショイ劇場の前に、大画面でオープニングガーラを見る =Getty Images撮影

グリゴロービッチによる『眠れる森の美女』登場
 ボリショイは、演目に関しては世界で最も保守的な劇場の一つだ。イクサーノフ氏は「過去の偉大なオペラとバレエを上演するのが我々のポリシーです。もっとモダンな出し物は、2002年にオープンした、本館の隣の新館でやります」と言う。

 来る第236シーズンは、ミハイル・グリンカのオペラ『ルスランとリュドミラ』で開幕。この作品は、ロシアのオペラの礎を築いた作品とされており、こけら落としにふさわしい。指揮はウラジーミル・ユロフスキー、演出はドミートリー・チェルニャコーフ。

 最初のバレエはチャイコフスキーの『眠れる森の美女』。マリウス・プティパ(仏)による初演での振り付けを、名振付師ユーリー・グリゴロービッチが再現する。

 今シーズンのチケットは早くも来年一月まで売り切れ。良い席を手に入れる唯一の方法はブラックマーケットという盛況ぶりだ。

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