ウラジーミル大公像の設置で論争

ウラジーミル大公の銅像=

ウラジーミル大公の銅像=

ウラジーミル・アスタプコヴィチ/ ロシア通信
 10世紀に「ルーシの洗礼」を行ったウラジーミル大公の銅像の除幕式が11月4日に行われる。建立場所はモスクワ・クレムリンの脇。高さ16メートルの銅像の設置をめぐり、地元住民や市民活動家の間では論争が巻き起こった。

 ウラジーミル大公(洗礼者ウラジーミル、聖ウラジーミルなどとも呼ばれる)像の設置計画には、当初から反対意見があった。

 ウラジーミル・メディンスキー連邦文化相が会長を務めるロシア軍事史協会は2014年末、銅像の設置を決定。2015年初めに銅像のコンセプトのコンペティションを実施した。非公開投票で優勝したのは、24メートルの像のプロジェクトを提案した、ロシアの彫刻家サラヴァト・シチェルバコフ氏と建築家ヴァシリー・ダニロフ氏。

 

反対派の意見

 銅像の設置に反対している人々は、ウラジーミル大公はモスクワに関係ないと主張している。明らかになっている最初のモスクワについての記述は、ウラジーミル大公が死去してから約100年後の1147年のものである(ウラジーミル大公の生存期間は960年頃~1015年7月15日)。ルーシの洗礼は、当時の国の政治の中心地キエフ(現ウクライナの首都)で行われた。

 反対派はまた、ウラジーミル・プーチン大統領をイメージさせる、「ウラジーミル像」の政治的側面を強調している。著名なジャーナリスト、オレグ・カシン氏は、像をプーチン大統領による自分と同じ名前の影響力のある人物に対する賛辞と指摘している。また、シチェルバコフ氏の当初の案では高さが24メートルになっており、キエフにある高さ20メートルのウラジーミル大公像を超えていた。ロシアとウクライナの関係が悪化している中、銅像設置を政治的なジェスチャーと受け止める人もいる。

 軍事史協会のウラジスラフ・コノノフ執行役員は、銅像の設置に対する政治的な見方に驚きを隠せない。「ウクライナ人からその大公を奪っているなんてコメントを読んで驚いている。(中略)我々の大国の発展の文明的ベクトルを定めたのがウラジーミル大公であることは明白」

 

 

設置場所をめぐり

 
 除幕式は、ウラジーミル大公の死後1000年にあたる去年の11月4日「民族統一の日」に予定されていた。

 当初の設置予定場所は、自然保護区「雀が丘」内のモスクワ大学近くであった。だがモスクワ川の土手に重さ300トンの像を設置すると地滑りの恐れがあり、地質条件は合わなかった。雀が丘への銅像の設置に反対する地元住民や都市保護活動家は2015年2月、請願署名サイトで設置反対者の署名を募り、8万500人分の署名を集めた。

 モスクワ市行政府はこれを受けて、中心部の別の場所、モスクワ川河岸通り、ルビャンカ広場、ボロヴィツカヤ広場などの代案を出した。行政府の投票ウェブサイト「積極的な市民」で実施したアンケートで、市民はボロヴィツカヤ広場を支持した。モスクワ市議会付属記念碑芸術委員会も2015年9月、ボロヴィツカヤ広場を設置場所として承認した。

モニュメントをボロヴィーツカヤ広場に設置中=イリヤ・ピャタエフ/ロシア通信モニュメントをボロヴィーツカヤ広場に設置中=イリヤ・ピャタエフ/ロシア通信

 ところが、このモホヴァヤ通りとズナメンカ通りの交差点付近(現在像が設置されている場所)はモスクワ・クレムリンの保護領域に入っており、新しい建設は禁止されている。ユネスコは2016年初め、ロシア政府に対し、歴史的風景に関する助言が拒絶され、遺産保護に関する条約の要件が守られなかった場合、モスクワ・クレムリンは世界遺産の登録から外されると警告した。その結果、製作者は寸法を小さくすることに合意。ウラジーミル大公自身の高さは12.2メートル、十字架を含めて16.8メートル以下となった。

 ユネスコのもう一つの要求は、国際的な参加者をボロヴィツカヤ広場の整備に加えることであった。ボロヴィツカヤ広場の改築コンセプトのコンペティションが実施され、ロシアの建築事務所「AIアーキテクツ」が優勝した。この案には、ウラジーミル大公がキエフの民を洗礼したドニエプル川の水を象徴する、段状の傾斜の設置がある。「おもしろい案が提案された。水に落ちて波紋が広がるしずくのようだ。洗礼の儀式をイメージさせる」と、モスクワ市指定建築士であるセルゲイ・クズネツォフ氏は説明した。

ボロヴィツカヤ広場、景色のレイアウト=モスクワ通信ボロヴィツカヤ広場、景色のレイアウト=モスクワ通信

 

ユネスコの措置は

 建築記念碑保護運動「アルナゾル」の調整役ルスタム・ラフマトゥッリン氏は、クレムリンだけでなく、他の景観的脅威を指摘する。「ユネスコ世界遺産には入っていないが、銅像の脇にあるロシア古典様式のパシコフ邸にはもっと脅威。銅像はクレムリン側から見た邸宅の歴史的景観を阻む。銅像の寸法を小さくしたことも、パシコフ邸の中央柱廊の軸に対して銅像を動かしたことも、解決策にはなっていない」とラフマトゥッリン氏はロシアNOWに話した。

 クレムリンがユネスコ世界遺産の登録から外される可能性を、アルナゾルはかなり低いと考える。「ユネスコの警告は口頭だった。つまり、ボロヴィツカヤ広場に銅像を設置する者になんら義務を課していない。したがって、ユネスコの処罰に公式な根拠は存在しない」

 来月1日までに、ロシアは世界遺産センターに、ウラジーミル大公像の設置結果に関する報告書を提出しなければならない。

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