日本の風力発電機とカムチャツカの子どもたち

カムチャツカ半島の東岸地域、日本製の風力発電タワー

カムチャツカ半島の東岸地域、日本製の風力発電タワー

=駒井ハルテック提供
 東京から約2800km、モスクワからは約6700km。自然豊かなカムチャツカ半島の東岸地域に、日本製の風力発電タワー3基がそびえ立っている。鋼構造物メーカーの駒井ハルテックが一昨年に完成させた設備だ。性能の高さはもちろんのこと、その最大の特徴は、タワーの根元に地域の子どもたちが描いた50作の絵が貼ってあることかもしれない。日本の環境技術はなぜカムチャツカに向かい、いかにして子どもたちと結びついたのか。

電力の“陸の孤島”が5300

 この風力発電システムは日本の「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)による実証実験プロジェクトとして、駒井ハルテック、三井物産、富士電機が共同で構築した。実験の地は太平洋に面する小都市ウスチ・カムチャツク。現地パートナーはカムチャツカ地方政府と、極東の発電業者「RAOエネルギーシステムヴォストーク社」(RAO-ESE)だ。同社はロシア最大の国営発電業者ルスギドロの傘下にある。

 国土が広いロシアでは大都市から少し離れると、地域のメイン送電網とつながっていない小さな村が数多く存在する。NEDOによれば、そうした地区は主にディーゼル発電機で独自に電力をまかなっており、極東では約5300地区がこれにあたるという。燃料となる軽油の輸送費がかかるため発電コストが高くつく上、悪天候などで燃料輸送がうまくいかなければ電力供給が危うくなるリスクもある。ディーゼル依存度を下げるためにロシアが注目しているのが、再生可能エネルギーの風力というわけだ。

駒井ハルテック提供駒井ハルテック提供

ハイテクを駆使した寒冷仕様

 駒井ハルテックの元来の主力分野は橋や鉄骨関連だ。だが約13年前に環境分野に本格参入し、2008年にはメキシコに風力発電機を設置するなど、海外展開を含めた実績を重ねてきた。ロシア事業の発端は2011年ごろ、極東での風力発電について三井物産から打診されたことだったという。駒井えみ執行役員は、「ロシアで仕事をするのは初めてでしたが、お話をいただいたときに抵抗感はありませんでした。すぐに経済産業省のサポートを受けられることが決まり、調査を始めました」と振り返る。初年度はサハリンでのデータ収集を実施。その後はNEDOによる調査・実験事業に引き継がれ、RAO社などとの調整を進めた結果、2014年秋にカムチャツカで実際に建設工事が始まった。

 駒井が建てた風力発電装置はマイナス40度の寒さにも耐えられる寒冷地仕様で、台風にも強く、1年を通した安定稼働が期待できる。出力は1基あたり300kW。設備に使っている資材はすべて、チャーター船で神戸港からカムチャツカに直送した日本製品だ。実証実験ではこれと併行して、地域全体の電力需要に合わせて発電量を最適化するといった高度な調整システムも動かした。NEDOによれば今回の実験結果から、地区内で使うディーゼル燃料を年間約400トン削減できることがわかったという。

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折り紙教室で交流深まる

 設備建設中の数カ月間、カムチャツカに滞在して施工の指導・監督にあたったのが駒井ハルテック環境事業部の山本佳宏課長(45)である。山本氏自身もロシアは初めてだった。「正直に言うと渡航前は暗くて怖い国というイメージでしたが、行ってみたら全然違った。今では住みたいぐらい好きですね」と笑う。

 山本氏は滞在中、知り合ったロシア人から現地の学校事情を耳にした。聞けば、低学年でも親元を離れて寮生活をしている子どもが少なくないという。「子どもたちを楽しませるために、一度学校に来て折り紙教室をやってくれませんか」との求めに応え、2014年冬のある日、学校を訪ねた。だが日本と違ってロシアでは折り紙の紙はどこにも売っていない。教室に入ると、教師がコピー用紙を正方形に切って準備していた。山本氏は低学年から中学年までの約50人に教え、最後には全員が「鶴」を折れるようになったという。こうして学校との交流が生まれ、年明けには子どもたちが風車や省エネルギーをテーマに絵を描き、作品を日本に送ってくれた。

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竣工式&絵の優秀作品表彰式で歓声

 駒井ハルテックのみならずプロジェクト主体のNEDOなど、日本側関係者は一計を案じた。実は冬に施工できたのは3基中の1基のみで、残る2基は15年初夏に建てることになっていた。各機関で合意したのは、届いたすべての絵をコピーして、風雨で傷まないように表面加工を施し、次回工事向けに搬送するタワー資材の表面に貼り付けることだった。2015年9月、タワーの下で行われた施設の竣工式には、地方政府知事や市長、関係企業幹部らのほか絵を描いた子どもたち全員が招かれた。発電システムのお披露目と同時に、絵の優秀作品表彰式も開かれ、タワー周辺は歓声につつまれた。

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 その後の実証実験を順調に終え、駒井ハルテックは今、本格受注に向けてRAO社側と商談中だ。コスト削減のため、一部資材をロシア国内で生産することについても関係機関と協議しているという。またロシア側からの要請に応え、寒さがさらに厳しいサハ共和国での実証実験にも取り組む予定だ。技術力の高さだけでなく、人と人のつながりを重視する企業風土。ロシアとの相性は良好のようだ。

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