なぜ中国にロシアが必要か

ナタリア・ミハイレンコ

ナタリア・ミハイレンコ

プーチン大統領は、大統領選前に書いた論文で、ロシアは“中国の風”をうまく帆に受けて自国の発展の追い風にしたいと述べていた。ヨットマンなら誰でも知っていることだが、海が時化て突風が吹いているときは――今世界は嵐が吹き荒れている――ヨットの操船はすごく難しいけれども、その代わり操船がうまくいったときには、目的地にずっと早く着ける可能性がある。この点、プーチン訪中は期待を裏切らなかった。

 露米関係の危機を背景に、この訪中は、ロシアによる新たなパートナーの模索だと解釈されている。ロシアは、前から宣言していたアジアへの転回をいよいよ開始したのであり、ウクライナをめぐる対立は、その触媒になったという訳だ。

 とはいえ、露中接近はロシアにとって必要なので、中国はその資源を利用するために近づけてやったにすぎないとの見方があるが、これは皮相に過ぎよう。中国は自らの政策の基盤を固めるために、相手におとらずロシアを必要としているのだ。

 

中国包囲網

 中国は現在の世界情勢に不安感を抱いている。その不吉なシグナルになったのが「アラブの春」だ。強力な海外の勢力が内政不安に付け込むことができる――。こうした非常に危険なモデルとして、中国は「アラブの春」を理解した。ましてや、米国はこれと時を同じくして、アジアでの新政策を宣言したのだから、なおさらだ。見た目の慇懃さにもかかわらず、この政策は、当然、他ならぬ中国抑止を目的としている。

 中国は隣国たちと多くの領土問題を抱えているが、それは長い間「休眠状態」にあった。ところが、それらは今やみんな目を覚まし、もはや局地的な問題のレベルではなくなっている。プーチン大統領が上海を訪れたときはちょうど、中国とベトナムの関係が緊迫し、中国人の避難にまで至った。日本、フィリピンとの関係も緊張している。最近、アメリカのオバマ大統領が太平洋諸国を歴訪した際は――おそらく初めてのことだと思うが――米国は、同盟国の領土問題において、あらゆる手段で援助するとはっきり示唆した。

 

中国の内憂外患

 こうした外患に加え、中国の発展モデルに関する熱い議論もある。中国経済は減速し、専門家らは好ましからぬ傾向を指摘しているのに、絶えざる急成長こそは、中国の政治体制および共産党の権力基盤の要なのだ。昨年末に開かれた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会では、多くの国内問題が指摘されている。それらの問題の一部は、最近30年以上の絶えざる成長による経済の過熱と関係しており、また別の一部は、社会的、経済的格差の拡大で、国民の大半が置き去りになっていることとかかわっている。こちらの問題も克服されていない。

 

ウクライナ情勢

 習近平氏は、2012年に国家主席に就任して以来、つまり現在の危機のはるか前から、中露関係を新たなレベルに引き上げたい意向を強調してきた。

 なるほど、中国がウクライナ情勢を警戒しているのは事実だ。中国自身、国内に少なからぬ分離主義の問題を抱えているので(新疆ウイグル自治区、チベットなどのほか、台湾との問題もある)、あらゆる国境線の変更には神経質であり、ウクライナ問題でまともにロシアを支持することは期待できない。

 だがそれと同時に中国は、以下の点を強調している。我々は、ウクライナ問題の大本の原因を理解しており、ロシアが米国の長年にわたる旧ソ連圏での政策に対して行動を起こしたことも弁えている、と。

 しかも中国は、米露の対立でロシアが負けることを望まない――それは米国を強めることになるから。米国が近い将来中国の戦略上のライバルになることは必至だと、中国は理解しているのだ。

 

動機1:グローバルな三国時代

 では、中国をロシアに接近させた具体的動機は何か?

 第一に、グローバルな戦略的均衡の問題がある。中国は、世界における自国と他の国の位置を、3つの超大国――中国、米国、ロシア――からなる三角関係を通して見ている。それぞれの角の重要度は、それが他の2角に対してもつ関係による。もし、ある角が、他の一つの角との関係を失うか損なうかすれば、その角は、中国人の観点からすれば弱くなる。なぜなら、第3の角への依存度が増すからだ。

 

動機2:地域の安全保障

 第二は地域の安全保障だ。中国の隣国たちが、この国の興隆を背景に自信を失うにしたがい、米国の対中圧力は増していく。ところが、ロシアは(中央アジア諸国をのぞけば)、中国との間に領土問題がない唯一の国だ。だから、中国にとっては最大限綱領は、領土問題でロシアの支持を取り付けることだが、これは期待薄で、ロシアは中立的立場をとるだろう。だが、少なくともこれは反中国ではない。

 

動機3:エネルギー安全保障

 第三に、安定したエネルギー供給だ。中国は伝統的に世界市場に依拠してきたが、世界各地で緊張が高まるにつれ、軍事的、政治的要因も考えざるを得なくなった。ロシアは、仮に深刻な対立がどこかで生じても、米国海軍が輸送ルートを遮断できない唯一の供給元だ。今のところ、こんなシナリオはありそうもないが、近現代史は、何でも起り得ることを再三示してきた。

 

第四の動機:世界経済を牛耳る米国

 第四はグローバルな影響力の問題だ。ウクライナ危機は一つ予想外な結果をもたらした。米国は、ロシアに圧力をかけるために、世界市場の機能に介入しようと政治的テコを使った。つまり、ロシアの複数の銀行を国際決済システムから外したり、格付け会社や国際金融機関に働きかけたりした訳だが、中国はこれを看過しなかった。こういうやり方は、米国と深刻な対立に陥った国すべてに適用され得るからだ。したがって、中国はロシアと同じく、世界経済における米国の独占状態を弱めることに関心がある。

 

第五の動機:発展の新たな刺激

 第五は発展の新たな刺激。中国は他の多くの国同様、輸出に依拠しており、国外の状況、景気に左右されるので、絶えず新たな市場を開拓しようとしている。一方ロシアはといえば、最近まで、経済的不均衡に陥ることを危惧し、中国からの大規模投資には慎重だった。だが、政治的接近は、こういう経済関係も促すことことがある。プーチン訪中はそのことを示した。

 もちろん露中関係は、気楽な散歩にはならない。二つの、隣国同士でそれぞれに帝国的性格を濃厚にもつ巨大な国は、摩擦を起こしたり、利害を対立させたりすることは避けられない。だがそれは自然なことだ。問題は今対立点がないことで、仮に将来問題が生じたとしても、それに対処するノウハウをもつことである。ロシアは、中国に比して脆弱な経済を政治的な能力と経験で補うことを学んでいかねばならない。この点では、今のところ、ロシアに一日の長がある。

 

フョードル・ルキヤノフ、政治学者、外交防衛政策会議議長。

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