日本料理は文化にして哲学

ロシアでは日本食の人気が止まらない。だが需要が多様化していることから、中価格帯の業者は苦戦している。
中国産の食材もたくさんつかわれている。極めて簡略化された工程で生産されているしょう油や、着色料と香料がつかわれたピンク色のガリなどの“模造品” だ。=Shutter Stock/Legion-Media撮影
中国産の食材もたくさんつかわれている。極めて簡略化された工程で生産されているしょう油や、着色料と香料がつかわれたピンク色のガリなどの“模造品” だ。=Shutter Stock/Legion-Media撮影

和食と恋に落ちて 

ヴァジム・ドリャビン氏=Press Photo

 ヴァジム・ドリャビン氏は、モスクワ市の高級日本料理店「美郷」の責任者。日本食との出会いは偶然だった。「『黄金の環』ホテル(外務省近く)の日本食レストラン『桃山』でマネージャーをしていた時に、初めて寿司を試食して感動したんだ」

 一時的な異動で桃山に配属されただけであったが、日本食と恋に落ち、日本の文化と哲学を学ぶには十分であった。「日本料理と、文化、哲学には相互関係があり、そこに魅力がある」。このような愛情から、黄金の環ホテルが「美郷」を開業した2008年、ドリャビン氏以外に責任者候補は不在だったし、検討もされなかった。

 「私の好きな料理は寿司全般。作法に反するし、料理長にも失礼だが、しょう油とわさびをたっぷりつけて食べるのが好き。あとは海藻をつかった料理と天ぷら」

 

今や露レストラン市場の総売上高の37%

 ロシアに日本食レストランがあらわれたのは1990年代。瞬く間に人気となり、特に女性客をとりこにした。寿司はカロリーが低いと考えられているため、 体重を気にすることなく食べることができる。ロシアには現在、日本食レストランが約4万軒あり、需要は伸び続けているが、格安と高級に二極化していると、 コンサルティング会社「エスパー・グループ」のダリヤ・ヤデルナヤ社長は説明する。同社長のデータによると、日本食レストランは現在、レストラン市場の総売上高の37%以上を占めているという。2010年には31%だった。ロシアの外食産業界では、日本料理がロシア料理(折衷料理を含む)に次いで2番目に位置している。

 ロシアの日本食レストランでつかわれている食材のうち、日本から輸入されているものは少ないという。輸入されているのはしょう油(最近はロシア産に置きかわっている)、ビール、ワイン、また海藻などの調達の難しい食材のみで、ほとんどはロシア産だ。

 

高級と格安に二極化 

 質の高い日本食を提供している高級日本料理店も、少ないながらロシアに存在している。ドリャビン氏はこう話す。「本物の日本料理とはどのようなものか、 偽物の日本料理とはどのようなものかを、ロシア人客が理解できるようになってきている。チェーン店を利用するのは、価格が安いからにすぎない」

 本物の日本料理は食材でも決まる。「安い日本食レストランでは本物の日本の食材をあまりつかっていない。つかっていたら、価格帯があがるはず。例えば、 つくられる場所がモスクワであろうと、アラスカであろうと、日本の米が使用されていなければならない」。モスクワにある日本食レストランのほとんどが、良くてイタリア米、悪くてロシア米を使っているという。そのため、寿司飯が粥のようになってしまうのだ。

 

「うちの日本人料理長はロシア料理とウォッカが好き」 

 中国産の食材もたくさんつかわれている。極めて簡略化された工程で生産されているしょう油や、着色料と香料がつかわれたピンク色のガリなどの“模造品” だ。「ロシア産で代用が可能な食材はキュウリとトマトだが、それも限られている。日本の砂糖をフランスの良質な砂糖で代用したことがあるが、あれはうまくいった。顧客も汁物の味の変化に気づくようになった」とドリャビン氏。

 ドリャビン氏の普段の食生活にも日本食の影響があるという。「非日本料理を家でつくっても、塩の代わりにしょう油しかつかわなくなった。あと炒める時は、最小限の油しかひかない」。その逆に、ロシア料理が日本料理に影響をおよぼし得るかという質問に、ドリャビン氏はこう答える。「うちの日本人料理長は夏に帰国すると、必ず総合的健康診断を受けるんだが、コレステロールなどの数値が高く、医師がダイエットをすすめるそうだ。料理長はロシア料理が好きだから、それが原因だね。ペリメニ(水餃子)、ボルシチ、パン、サロ(豚の脂身の塩漬け)、そしてウォッカもね(笑)」。これが冗談なのか、本当なのかはわからない。

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