韓国向けのガスは北朝鮮迂回か

Vostock-Photo撮影

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ロシア政府は韓国向けのガスパイプラインの建設で、北朝鮮を迂回できるかについて検討している。これは北朝鮮政府ではなく、中国政府に向けたメッセージとなる可能性がある。

 ノース・ストリームとサウス・ストリーム、すなわちロシアからヨーロッパへの、南北の海底ガスパイプラインに似たプロジェクトを、アジアでも実現することができ る。ウラジーミル・プーチン大統領はアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で、韓国へのガス輸出の一案として、ロシアが海底ガスパイプラインについて検討していることを明らかにした。

 韓国向けのガスパイプラインは、ヨーロッパよりも短い、650~900キロメートルで済む(ノース・ストリームは1200キロメートル)。これが実現すれば、北朝鮮政府や南北朝鮮の”冷戦”に左右されることなく、ロシアと韓国の間でエネルギー貿易が可能となる。

 

“南北冷戦”に関係なく輸出可能に 

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アジア向けの石油

 韓国市場はロシアにとって非常に興味深いと、ロシアの「アルファ銀行」石油・ガス問題上級アナリストのアレクサンドル・コルニロフ氏は話す。 アジアにおける液化天然ガス(LNG)の価格は、MMBtu(百万英熱量)あたり14ドル(約1400円)で、ヨーロッパの10~11ドル(約 1000~1100円)よりも高い。「カタールが同じ理由で、ヨーロッパ向けの大部分をアジアに切り替えたのは知られている話」と、コルニロフ氏。

 インターファクス通信のデータによると、ガス分野の関係者は以前、韓国向けの海底ルートの案を批判していたという。この地域の海底の起伏はとても複雑で、 深さは3キロメートルに達するため(ノース・ストリームでもっとも深い場所は210メートル)、技術的に敷設が難しいというのがその理由だ。ロシアの民間 エネルギー調査会社「ロスエナジー(RusEnergy)」のパートナー兼アナリスト、ミハイル・クルチヒン氏は、技術的な困難はそこにはなく、計画がしっかりとしていれば、海底ガスパイプラインの建設を20億ドル(約2000億円)以下に抑えられると考える。

 

ウラジオストクのLNG工場と相打ちに? 

 ただし、このプロジェクトが実現した場合、ロシア国内のガスは足りるのかについて、クルチヒン氏は懐疑的な見方を示す。ロシアの国営ガス会社「ガスプロム」がこれまで何度も、ウラジオストクのLNG工場(ここから韓国向けパイプラインも伸びる予定)の建設プロジェクトを発展させると発表してきたからだ。 「サハリンのガスはプロジェクト2つには不十分。ここから近い将来得られるのは、多くても年間170億立法メートルほど。つまりサハリンのLNG工場の2 ライン分。韓国に提供するなら、ウラジオストクのLNGのことは忘れなければならない」。

 ロシアの投資分析会社「インヴェストカフェ」分析部のグリゴリー・ビルク共同部長は、サハリンの新たな1ラインとウラジオストクの新工場の建設という、 極東のLNG生産量拡大案を、より妥当だと考える。これによって、ガスプロムが韓国へのLNG輸出量を拡大できる。「海底パイプラインの敷設のコストは、 北朝鮮経由の最短ルートの2倍になる」。

 

プーチン発言の真意は 

 ただしプーチン大統領の今回の発言が、韓国や北朝鮮ではなく、中国を意識していた可能性も否定できない。ロシアは中国と、新しいガス輸送システム「シベリアの力」の建設プロジェクトの一環として、東シベリアのガスの購入について、かなり前から交渉を行っている。ガス輸送システムの一期工事でサハ共和国と ハバロフスク、ウラジオストクが結ばれ、二期工事でイルクーツクが加わる。ガスプロムは2012年10月、チャヤンダ・ガス田の整備、ウラジオストクまで のガス本管とベロゴルスクのガス精製設備の建設のプロジェクトへの投資について、最終的な決定を行った。ガス輸送システムの第一部が稼働を開始するのは 2017年の予定。

 ロシアと中国は量(380億立法メートル)と供給時期(2018年開始)について、すでに合意しているが、最後の障害になっているのが価格で、これによって最終的な合意に達することができない。そのため韓国という代案が、中国と交渉する上でロシアの切り札となる可能性があるのだ。

 

中国とガス供給の価格で合意するのが狙いか 

 ウラジオストクのガスの価格は今のところ、韓国の価格と完全に一致している。「(東欧ガス分析社の)ミハイル・コルチェムキンの(ガスプロムの決算書をもとにした)計算を信じるなら、ウラジオストクにおけるサハリンのガスの原価は現在、1000立法メートルあたり640ドル(約6万4000円)以上。供給には政府が補助金を出す。韓国については、ガスの利益について話す必要すらない」とクルチヒン氏。

 サハリン2の運営会社であるサハリン・エナジーが、韓国の「コガス」社との契約にもとづいたLNG価格の値上げを行っていることは偶然ではない。ブルー ムバーグのデータによると、ガスプロム(サハリン・エナジーへの出資比率は50%)は、契約が結ばれた2005年から、ブレント原油の価格が著しく上昇したことを受け、契約にもとづいた石油価格を値上げする計画を立てているという。交渉は来年にも始まる可能性がある。

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