西部劇ならぬ東部劇

「東部劇」というソ連の映画のジャンルは冷戦時代に生まれた。アメリカの西部劇のパロディー的要素がすべて込められている。東西の間に鉄のカーテンが存在していた時代、人々は異なった見方で世界を見ていたし、異なった理想を持っていた。だがソ連の観客も、西側の観客も、同じように追跡、ケンカ、銃撃戦、冒険を愛していた。

舞台はワイルド・ウエストと中央アジア

 東部劇と一言で言っても、独自の東部劇と「赤い西部劇」という2つのサブジャンルがある。赤い西部劇とは、アメリカの西部劇すなわちワイルド・ウエスト(アメリカ開拓時代の西部)が舞台のカウボーイやインディアンの映画を、ほぼ模倣したソ連映画。ウラジーミル・ワインシュトク監督の『武装していてとても危険(Voorujen I Ochen' Opasen)』(1977年)や、アーラ・スリコワ監督の『カプチーノ街から来た人(Chelovek S Bul'vara Kaputsinov)』(1987年)などがある。

 ソ連映画ではインディアンの代わりがブルガリア人、セルビア人、モンゴル人などだった。ワイルド・ウエストの代わりは普通に東部で、ソ連の中央アジアの共和国が舞台になっていた。ウラジーミル・モトィリ監督の『砂漠の白い太陽(Beloe Solntse Pustyni)』(1970年)、ウラジーミル・ロゴヴォイ監督の『将校(Ofitsery)』(1971年)など。

『将校』=YouTube

時代はインディアン戦争とロシア内戦

 アメリカの西部劇は、西部開拓のインディアン戦争の時代を舞台としている。他には南北戦争の時代や、20世紀初頭などもある。

 東部劇ではもっとも劇的な時代の一つ、ロシア内戦やその後の約10年の混乱期などだ。ニキータ・ミハルコフ監督の『光と影のバラード(Svoi Sredi Chujih, Chujoi Sredi Svoih)』(1971年)、エドモンド・ケオサヤン監督の『すばしっこい復讐者(Neulovimye Mstiteli)』(1966年)など。

 

主役はカウボーイと赤軍兵士

 初期の西部劇ではカウボーイ、開拓者、保安官といった主役が、非常に高潔で誠実だった。主役は通常、孤独で、冒険を求めていた。だが時にゴロツキで、銀行や列車を襲い、左右に発砲し、若い娘をさらっていた。早撃ち名人で(時に腰から発砲するが、百発百中)名騎手、また冷静沈着で、自立していて、自己中心主義者である。金儲けであろうが、復讐であろうが、自分の目的だけにしたがう。

 東部劇の主役は、いつも道徳的に最高水準にある。理想的に、また人々の幸福のため活動する。これは単に、ソ連の検閲が他の性質を許可しなかったからである。主役が決して一匹狼であってはいけない。いつでも集団あるいは社会の一員であり(例えば赤軍やチェーカー)、高い目標をかかげている。

 東部劇の特徴は、さまざまな民族の良い主役が登場することである。『すばしっこい復讐者』のヤシカ・ジプシーや、『砂漠の白い太陽』の中央アジア出身のサイードなどがいる。

『砂漠の白い太陽』=YouTube

 またソ連映画の主役は、必ずしも英雄的であったり、人並み外れた力を持っていたりしなければいけないというわけではなかった。肉体的に弱い者や、ヘタな騎手やガンマンが主役になれた。例えば、『カプチーノ街から来た人』のミスター・フェストや、『砂漠の白い太陽』のペトルハなど。イデオロギー的に正しいことが大切だった。

 

脇役は農民

 クラシックな西部劇では、カウボーイが良い人、インディアンが大げさな悪党に描かれていた。農民と平和的な街の人は端役で、自分の立場を堅持することができず、強い人間の権力を認め、助けてもらうのを待っていた。有名な『荒野の七人』(1960年)など。

 赤い西部劇ではインディアンとは、迫害され、自己の権利のために戦う、かわいそうな民である。そしてもちろん、農民は良い人ばかり。東部劇の特徴は、さまざまな民族の良い脇役が登場することである。

 

『光と影のバラード(Svoi Sredi Chujih, Chujoi Sredi Svoih)』=YouTube

 

恋愛は軟派と硬派

 西部劇には必ず恋愛がある。主役は高潔な少女で、『マッケンナの黄金』の娘のような被害者だ。時に巧みな詐欺師だったり、娼婦だったりする。西部劇の主役にはたくさんの元恋人がいて、女性にモテモテだ。

 東部劇ではほとんど恋愛がない。アメリカの『首なし騎兵』(1922年)の大農園主ポインデクスターの娘や、酒場の歌手が登場する赤い西部劇は例外として、全体的に主人公は恋愛の経験に乏しいが、幸運な男だ。

 主人公は『砂漠の白い太陽』のスホフのように既婚者だったり、世界的な革命に忙しくて恋愛どころではなかったりする。また『光と影のバラード』のように、男だらけの映画もある。

 

元記事(露語)

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