ヒップスター・サケの「テルノエ」

最近ある外国人が、ロシアに住んでいて最もエキサイティングなことってなに、と私に尋ねてきた。彼女はおそらく、ボリショイ劇場で「くるみ割り人形」を鑑賞するとか、オリンピック関連のこと、あるいはもしかすると「偉大なロシアの魂」の神秘に関するような答えを予期していたのだろう。だが、私にとって大事 なことは、すべて食べ物に関することなのだ。「無限にお手頃な価格で手に入るサケね」と私は即座に答えた。

 私が湯通しした残り物のサケを使って、「テルノエ」というフィッシュケーキにするつもりだと提案すると、「ハンサムなロシア人の主人」こと殿下(編集部註:英語では Handsome Russian Husband だが、略称の HRH (His Royal Highness)は王族に対する「殿下」の意の敬称)は嫌そうな顔をした。どうも、魚と古くなったパンを牛乳に浸して作った小サイズのナゲットは、ソビ エト時代だった彼の子どもの頃には、陳腐な一品として頻繁にメニューに登場したようである。彼が覚えているフィッシュケーキとは、退屈で味気がなく、冷凍されたハリバやタラの断片を使って作られ、化学合成されたようなマヨネーズを添えて供されるものだ。食欲をそそるフィッシュケーキなど、彼には想像できなかった。

 

現代版も似たり寄ったり 

 私は食べ物に関する挑戦状を「殿下」に突きつけられるといても立ってもいられないので、早速ロシア語の料理本の山を取り出してアイディアを探してみた。どの本にもテルノエのレシピがあり、そのどれもが、魚、卵、小麦粉、そして古くなったパンという、一様の陳腐でどう考えても意欲が湧かない材料を羅列しているのであった。

 ジェイミー・オリヴァー(編集部註:メディアで大活躍中のイギリス人シェフ)かぶれでちやほやされすぎのヒップスターで『本物のロシア料理』の著者、マキシム・シルニコフ氏(それは「チーズケーキ」という意味になるが、これは偽名に違いないと私はふんでいる)は、タマネギとディルを加えることを提案しているが、それではとても斬新なアイディアとは言えまい。

 

「そんなの伝統料理じゃな~い」 

 というわけで、話を短くすれば、このソビエト時代のロシア料理の定番をどうするかということが課題なのだ。これにはどうしても現代化が必要なのだ。今日のロシアでは、Aはアニスの実からZはザタールまで、何でも入手できるが、レシピに1つでも新しい材料を 足そうとすると、私のところになんとも辛辣な攻撃メールが洪水のようにロシア人読者から寄せられるのだ。それも、過去20年ロシアに住んだこともない人たちの方がひどい。これにちょっとチリパウダーをかけてみたり、それにちょっとザクロの糖液をかけてみたり、バニラアイスクリームを含めたありとあらゆるものにスマックをふりかけることなど、考えるのも嫌なほどの蛮行だ、と彼らは罵る。

  「そんなの伝統的なラシーーーーーーヤの料理じゃないでしょ」と、ブライ トン・ビーチの方面から間延びした話しぶりで文句を言っているのが聞こえる。 

 

夫、おかわりを盗み出す 

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 そういう人たちに、私はこう申し上げたい。「ヌー・イ・シュト?」 (だからなんなのよ?)  かのチーズケーキ氏でさえ、タバスコのボトルを冷蔵庫の片隅に置いている筈だという考えを当てにして、私は、西洋わさびや黒胡椒といったいくつかの紛れ もなく「ラシーーーーーーーヤ」らしい伝統的材料に、パプリカやケイパーのような輸入品もいくつか加えて、テルノエをピリ辛くしてみることにした。白タマネギのすりおろしに加えて、汗をかくまでいためたポロネギと、ズッキーニも少し加えて、対照的な色彩と食感を創造するのだ。私が大好きなロシアのスモークサーモンをテルノエに加えると、間に合わせのはずの水曜日の夕食が、一瞬にしてエレガントな土曜の晩のディナーの幕開けとなる。私は1回分を揚げてみたところ、私が見ていないと思った隙に、「殿下」がおかわりをいくつか冷蔵庫から盗み出すのを目撃した私は嬉しくなった。 

 だから、あなたがバイカル湖畔の出身であれ、ブライトン・ビーチの出身であれ、まったく新しいことを試してみればいいのだ。本当に、人生にはディル一筋では退屈なほどいろいろなものがあるのだから。  

 

材料: 

古くなったサワードウまたはフランスパン、3カップ、角切り*

全乳か乳脂肪10%のクリーム、またはその組み合わせ、1〜1カップ半、鍋でゆっくり温める。あまり煮えさせないこと。

ナツメグ、小さじ半

新鮮なサケか、残り物を湯通ししたもの、またはサケ缶。骨を除去し、フレーク状にする。450〜680グラム。

スモークサーモン、1カップ、角切り

ケイパー、大さじ2、つぶしたもの

ポロネギ、半カップ、細かい角切り

ズッキーニ、半カップ、種と芯を取り除き、皮に近い部分を細かく角切りにする。

タマネギ、半カップ、角切り

タバスコ、3〜4振り、好みに応じて調整する。

レモン、1個、外皮をすりおろし、汁を搾り出す。

粗めの海塩、小さじ2

新鮮な黒胡椒、5回ひねって砕く、好みに応じて増やす。

スモークパプリカ、大さじ1

小麦粉、大さじ1、まぶし用も別に確保する。

卵、1個

卵黄、1つ

刻んだディル、大さじ4

刻んだパセリ、大さじ4

最高品質のオリーブオイル、1/3カップ

 

調理法: 

  1. パン、ナツメグと牛乳/クリームの混ぜ合わせを非反応性のボウルで混ぜ、最低30分間はそのままにしておく。
  2. 皮、筋や軟骨、骨のすべてを取り除いてサケの下ごしらえをする。最良の出来栄えを達成するには、サケを3〜4分間湯通ししてから次の手順に進むといいだろう。
  3. 小さなフライパンに少量のオリーブオイルをひき、ポロネギがしなやかになるまでソテー風に炒める。ズッキーニを加えて1分間調理する。
  4. サケ、タマネギ、ポロネギ、ズッキーニ、レモンの皮、レモンジュース、卵、卵黄、スモークサーモン、ケイパー、ディル、パセリ、タバスコ、小麦粉大さじ1、そしてパプリカを、ステンレス製の刃がついたフードプロセッサーに入れ、5回オン・オフを繰り返しながらプロセッサーにかける。プロセスしすぎないこと。
  5. 目の細かいふるいを使ってやさしくパンを押し、水分を取り除くと、ふるいの目の間を液体が通っていく。
  6. パンの混合物をフードプロセッサーの材料に加え、最後に2回ミキサーにかける。注意:フードプロセッサーがない場合は、注意してすべての材料をきわめて細かいみじん切りにすること。卵と卵黄をよく混ぜ、混合物に足して、調理用の大さじでしっかり混ぜる。
  7. 清潔な調理台の上に小麦粉をまぶし、さらにトレイの上にも小麦粉をまく。手を水で濡らして、サケの混合物をゴルフボールより少し大きめのディスク上に成形 する。1段以上の層を作る場合は、羊皮紙を使い、層の間にはさらに小麦粉をまくこと。羊皮紙の層の間にはさまれ、ジップロックのバッグに入れたら、テルノイを冷凍する。
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  9. 大さじ6〜8のオリーブオイルを中火にのせた大型のフライパンにひく。オイルがはね始めたら、そっとテルノイをオイルの上に置く。片面を4分間調理したら、フライ返しでひっくり返してさらに4分間調理し、最初の面にもう一度ひっくり返して最後の1分間調理し、パリパリにする。
  10. すぐに食卓に出す。 

 

 *これはテルノエの基本的なコンセプトから完全に逸脱することになるが、古くなったパンと牛乳の替わりにマッシュポテトを3カップ 使うという、アイルランド料理からヒントを得たレシピもある。その結果は同様に美味しいもので、マッシュポテトが冷蔵庫に残っている場合、この上ない利用法になる。 

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