文豪の青春の集大成:レフ・トルストイ 『コサック』

 トルストイというと、晩年の厳格な宗教思想家としてのイメージが強い。だが、この大作家にも青春はあったのだ。しかもとびきり多感な…。

 『コサック』の主人公オレーニンの軌跡は、多くの点でトルストイ自身と重なっている。倫理の追求と感性の誘惑との間で揺れ動き、放蕩の末に自然に憧れ、当時国境地域だったコーカサスでの軍務に赴き、勇猛なコサックと村の少女に魅了されるオレーニンの姿には、若き日の作者の夢と苦悩が色濃く投影されている。この小説はトルストイにとって、青春の集大成であった。

 気鋭のロシア文学者の新訳は、みずみずしい日本語でこの青春小説の清新さを伝えてくれている。知られざるトルストイと出会うために必読の一冊。(山形大学教授・中村唯史)

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