甦るロシア文学論の名作 『ドストエフスキー人物事典』

 巨大なドストエフスキー文学の世界を噛み砕いて語ってくれる、当代一流のロシア文学者による入門書。一般には馴染みの薄い短編も含めてドストエフスキーの全小説をとりあげ、作品のあらすじに加え、登場人物たちの性格や相互の関係を紹介する。書名こそ「人物事典」だが、決して安直なガイド本ではなく、人物紹介という形式を借りつつドストエフスキー独特の小説作法と人間理解の核心を分析する、渾身の作家論である。それぞれの作品の背景となっているロシアの歴史や文化的土壌について、詳しく解説されているのもうれしい。1990年刊行の古典的名著だが、今年になって文庫化され、手軽に入手できるようになった。冬の夜長、ロシア的精神にどっぷりと浸るには格好の一冊である。

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